もし、赤い頭巾の魔法使いがリンゴを持って現れたら、もう手遅れだ。
その時点で、すでに幻惑にかけられている――
「レッドフード」の異名を持つ魔法使いには、そんな逸話がある。
闇に生きる魔法使いは、本来めだつ格好を好まない。
それだけ鮮やかな「赤装束」は、滅多にお目にかかれるものではない。
色仕掛け。巧みな話術。
レッドフードは、人々を惑わすことで利益を得ていると言われている。
どれだけの人間が彼女に騙され、餌食になったのだろう?
リンゴは、レッドフードの代名詞だ。特別な代物で、強烈な「幻覚作用」があるらしい。
得意の『幻覚魔法』は、手練れの魔法使いでも防ぎようがないという。
レッドフードの評判を決定づけたのは、結果として「魔物」になってしまったことだ。
他人を誘惑し、その「命」を搾取することで、「永遠の生」を得たと言われている。
「その赤い魔法使い」は、一目では魔物に見えない。
しかし、彼女がもし「すでに何十年も生きてきた」とすれば、化物じみた若さである。
ひょんなことから「日記の書き手」と出会い、彼女も世界の不条理に巻き込まれていく。